エンタメ

永瀬正敏 主演 映画『GOLDFISH』藤沼伸一監督 インタビュー(特集・後編)

不条理な世の中を挑発し続けるパンクバンド 亜無亜危異(アナーキー) のギタリスト 藤沼伸一が、初めて映画監督に挑戦した『GOLDFISH(ゴールドフィッシュ)』が、2023年3月31日よりシネマート新宿・心斎橋ほかにて順次公開される

今回 Onigiri Mediaは藤沼監督にインタビュー。前編記事では映画監督を務める事になった経緯や映画のタイトルに込めた想い等について紹介したが、後編の本記事では初めての監督経験や、キャスティング、撮影エピソード等を紹介する。


映画 GOLDFISH
2023年3月31日公開

2023年3月31日よりシネマート新宿心斎橋ほかにて順次公開される、パンクバンド 亜無亜危異(アナーキー) のギタリスト 藤沼伸一が、初めて映画監督に挑戦した映画『GOLDFISH(ゴールドフィッシュ)』。

映画『GOLDFISH』Website
https://goldfish-movie.jp/

本作は、バンド 亜無亜危異(アナーキー)に実際に起きた出来事をモチーフにした フィクション映画だが、昨今のバンドやシンガーの伝記映画の様でもなく、単なるバンド/音楽映画でもない。

挫折、孤独、老いなど普遍的なテーマに触れている作品である。とは言え、思った以上に笑えるシーンも多い。

Onigiri Mediaは、そんな多層的/多面的な映画『GOLDFISH』にて、初監督を務めた 亜無亜危異のギタリスト 藤沼伸一氏にインタビューを実施。

前編記事では、映画監督を務める事になった経緯や、映画のタイトルに込めた想い等についてご紹介した。

後編の本記事では、初めての監督経験についてや、キャスティング、撮影エピソード等、より深く本作に込められた藤沼監督の想いについてご紹介する。

映画『GOLDFISH』
藤沼伸一 監督
インタビュー 後編

Text: Tomoko Davies-Tanaka
Photo: Kaoriko ossie Hanawa


ーー今回の映画は全くのフィクション映画ですし、リアルと違うのは百も承知なのですが、やはり観る側としては「亜無亜危異のアノ話がベースなんだな」…とか思ったりもするので、少し不思議な気持ちになったりもしました。

藤沼監督
藤沼監督
多分それは亜無亜危異を知っているからだと思うんですよね。でも俺は亜無亜危異を知らない人にも観てもらって、どういう反応なのかな?ってのも知りたい。

藤沼監督:バンド音楽モノって凄く難しくて…特に日本の音楽だと、そんなにマーケットも広くないし、みんなの日常生活の中に、食べ物とかセックスとか、犯罪とか貧困とかは共有してるけど、音楽って共有してないじゃないですか。

それで「あぁ、ロックの、パンクのそう言う映画ね」って見方になっちゃうと、ギュって凄く狭くなっちゃう。それは俺は絶対避けたいって言うのがあった。

それに、永瀬(正敏)さんは 本(脚本)の良し悪しで出演を決めていると聞いていたので、そう言う彼が出てくれたら、観る人も広がるかなと思って。

キャスティング

ーー今、お名前が出たので伺いたいんですが、永瀬正敏さんとは以前からのお知り合いではなかったんですか?

藤沼監督:もちろんお互いには知ってたよ。永瀬さんも亜無亜危異を知ってて、俺のことも知ってるとは言っていて、俺も もちろん永瀬さんのことは知っていて、共通の友達とかも居るけど、遊んだり、直接お話したことはなかったです。

ーーお互いの名前は知っているし、活動も観たりとかはしていたけど、直接のつながりはなかったと。

藤沼監督:そう、だから今回の映画のキャスティングの時に、台本を送って、向こうから監督に会いたいって来たんで、それじゃ会いましょうって言って、「はじめまして」って感じだった。

ーーそうだったんですね。本作はロック・ファンだけじゃない人にも観て欲しいと仰ってましたが、音楽ファンの興味をそそるキャスティングにもなってます。その辺はどの様に決められたんですか?

藤沼監督
藤沼監督
初め、俺は アニマル役をピエール瀧は、どうだろ?って言ってみたの。ちょうど捕まったばっかりの頃で。そしたら「何言ってんだ」って怒られた(笑)

藤沼監督:まぁ、音楽ファンが喜ぶキャスティングは、結果的にそうなったって感じなんだけど、プロデューサーとか脚本家とかと、毎週 何回か会議をして「この役はこの人が良い」って皆で出し合って、スケジュールとか確認して…こう言うのは最終的には主観だから。

ーー個人的にはバックドアマンを演じられた町田康さんが、非常に印象的だったのですが。

藤沼監督:俺が最初に「町田にしたい」って言ったの。

映画の中で、マリ(逸見泰成)をベースにした役柄のハル(北村有起哉)と、彼を破滅の世界へと引きずり込む死神のような男=バックドアマンとのやり取りがあるんだけど、マリのことを良く知っているファンの中には、あの描き方じゃ納得できないって言う人も出てくると思ったのね。

でも町田に頼んだら多分文句は出ないだろうと。それで「お前やって」って言ったら「えぇで」って(笑)

ま、それは半分冗談だけど、俺、アイツの演技スゴイ好きだから。絵力と言うか。

藤沼監督
藤沼監督
コレは撮影秘話なんだけど…

藤沼監督:脚本は標準語で書いてあって、演技をしてもらったら標準語でセリフを言ったんだけど、でも町田は西の人だから「関西弁で良いよ」って言って。

「町田っていつも人のことおちょくるじゃん、居酒屋でさぁ。アレやって」って言ったら「もろ俺やんけ」って言うから、「もろお前がええんやけど」言ったら、バッチリ(笑)このセリフのこのタイミングで笑うんだ…とか。出た、ヤッターって(笑)

ーーそうですよね、凄く町田さんだけど、凄くあのキャラクターっぽいと言うか。

藤沼監督:ま、それが俺の狙いでもあったんだよね。

若手俳優

ーー若手の俳優さんはどの様にして決められたんですか?

藤沼監督:若手は最後の方に決めたんだけど、知り合いに声をかけてもらって、オーディションをしてって感じで。

ーー若い役者さん達って当時の亜無亜危異の事とか、80年代の空気感とか知りませんよね。その辺は、どの様に説明されたんですか?

藤沼監督
藤沼監督
まぁ、噂は知っていると言うか、年表では見たことある的なヤツだよね(笑)

藤沼監督:その辺は亜無亜危異のドキュメンタリー、80年代のインタビューも含めたヤツがあったんで、それをみんなに観てもらい、こんな人達なんだよって感じで話してもらって。あとはYouTubeとかに上がってるのを観てもらったり。

俺と若いイチ(長谷川ティティ)の子はディスカッションして、お前の頃の俺は全然イケてなかったからって話して。

永瀬さんになると、イチはイケてくる感じになるんだけど、そう言うハルとイチの関係性が(時代によって)逆になる感じを出したかったから、ハルの若い頃(山岸健太)はちょっとイケイケの感じにして。

ーー今の若い子たちって、昔と違って余り大人に表立って反抗したりするイメージが無いんですが、そう言う反抗的な表現等はどう説明されたのでしょう?

藤沼監督:単純に若いって言うのは、今のあの子たちが持っているものだけど、周りの器がちょっと変わるだけの話で、本質はそんなに変わってないし、反抗期とかもあるし、ぜんぜん上手くいかねーよって言うイライラもあるし、そこを大事にしたいとは思ったよね。

今のお前らが持っている、ムカムカとか、ムラムラとか(笑)だから、そこは大事にして、あとは80年代はこんな感じだったんだよって教えるくらいで。そんなに変わらないって。

還暦新人監督

ーー藤沼監督は、今回が初の映画監督と言う事で、もちろん撮影現場でも初めての経験だらけだったと思うのですが

藤沼監督
藤沼監督
そう、だから本たくさん買ったもん。映画の撮り方とかさ(笑)

藤沼監督:あと脚本を書いてる時に、絵コンテの描き方講座、ネットの講座とかあるじゃない、それを受けたりとかしてた。すごい本も読みましたね。

知らない情報だからさ「あ、俺こんな事も知らないんだ」って思って。知らない事を知るには勉強、本を読んだり、YouTubeで観たりするのが手っ取り早いから、映画の撮り方とか観て。

ーーミュージシャンや役者の方で映画監督をされる方もいらっしゃいますが、ご自分のセンスとか、気持ちとか、ニュアンスを、現場の方に伝えて作りましたって人も割と多い中、勉強されたと言うのが、失礼ですが、ちょっと意外と言うか。

藤沼監督:俺 意外と好きなんよ。そういう事。「藤沼はこんなのやらないだろ」って事を「いや、俺はやるんだよ」って(笑)

それから、映画を撮る前に色んな他の映画監督さんの話を聞きに行ったりして、こう言う映画監督はスタッフさんに嫌われるって話を聞いたら、じゃあ現場ではそうならない様に注意しなきゃって思ったり。

藤沼監督:だいたい新人の映画監督は撮影が延びるらしいんですよ。ねばったり、現場に来て決めるから。だからそれはナシにしようと。

延びると予算もはみ出るし、(スケジュールが押すから)撮れないシーンも増えるし、これは絶対に避けたいと。その為には勉強しなきゃって。

撮影現場で…

ーーその他、撮影現場で気をつけられた事ってありますか?

藤沼監督:人間って焦るとパフォーマンスが下がるじゃないですか。怒られたり、嫌なことがあっても下がるし、それだけは避けたいと思って。

人間って良い気分の時だったり、「よっしゃー」って時にパフォーマンスが上がるし、ギターも良くなる、カメラも良くなるって事は重々知ってるから、みんなをそうさせないとって思ってました。

だからプレッシャーにはなるかも知れないけど、誰よりも早く現場に行って「オハヨー!」って声かけて、全然無理やりじゃなく、そうするとみんな元気になってくれるし。

藤沼監督
藤沼監督
で、コソっと「必殺技だしてよ」って言うと、「え?良いの」とか言ってやってくれちゃったりするんですよ(笑)

藤沼監督:「〇〇組の現場でやれない事、やっちゃって良いから」とかって言うと、「え?やっちゃって良いの?」とか言うんで「ウチはなんでもOKだから、やって!やって!」って言って。

そうすると「うっしゃー!」ってなって、必殺技を出してくれたりするんですよ(笑)

今だから出来たこと

ーーほぼ全て初めての経験だった監督業でしたが、やってみて音楽を作る時との共通点などはありましたか?

藤沼監督:俺、自分のバンドの中で、ただギターを弾くとかじゃなくて、 亜無亜危異の後半とか、Regina、舞士もそうだけど、自分で作詞/作曲して、自分の家でデモテープを作ってて。

例えば、こう言う曲を書きたいってイメージがあって、それに合う様な曲を書いて、歌詞をつけて、デモテープでギター弾いて、並べるじゃないですか。

今はパソコンで切ったりできるけど、それを今度は聞いて、ギターを弾く真似をするんですよ。

それをやった時に「のれない…」ここでジャンプしたいってなったら、そこを切って「バーン」ってやったりとか、そういう作業をしてるんですけど、それと一緒だった。

最終的にこう言う絵を描きたい、こう言う映画を撮りたい、そのためにスペシャリストのスタッフさんに、お任せするところはお任せして「ここだけはイヤだ」って言うのが、作り方としては一緒。

藤沼監督:例えが変ですけど「こう言う感じのカレーうどん作りたい」ってなったら、それに向かう材料を考えたりするじゃないですか。

で、舐めてみて「こっちじゃないんだよね」ってなって、途中からそれをインド風に変えたりすると、ゴチャゴチャするから「これ要らない、インド風いらない」ってやって、イメージに近づけていくのが、音楽も映画も似てるなと。

ーーなるほど。と言う事は元来の映画好きに加えて、音楽制作含めて今までのご経験があったから…つまり今だから、映画監督が出来たって事もあるんですかね。

藤沼監督
藤沼監督
そうですね。歳食ってきたから、変な威張りも突っ張りもないところで、みんなで上がりながらモノを作る為には、このくらいの年齢が必要って言うか、そう言う年齢に俺はなったんだな…と。

藤沼監督:この間ヒッチコックの映画を観たんですよ。アンソニー・ホプキンスがヒッチコックを演じた映画

その中に「もう、あんた60歳なんだから引退しなさいよ」ってセリフがあって、「ガーン!俺これからなのに」って(笑)

まぁ、でも歳食ってから映画監督になるなんて、なかなか無いじゃないですか。おかしいなって。

でも、三代目魚武濱田成夫って居るじゃないですか、俺の後輩なんですけど。

あいつがパリでファッションショーやったり、ニューヨークで落書きしたりして、その界隈で人気になって帰国したら、誰かがどっかのビルの最上階の部屋を用意して、投資もするから「君、ここで仕事してください」って言われたんだって、まだアイツが若い時。

その時にアイツがなんて言ったかって言うと「ココで、これやっちゃったら俺の伝記が3ページで終わるやん」って。カッコイイなと思って(笑)

そうすると、1年が1ページだとすると、俺 60ページ目まで来てるから、そこから映画監督がはじまると、見てる人も「おっ」ってなるじゃん?それも面白いなと思って。

「鮒」か「金魚」か
藤沼監督メッセージ

映画「GOLDFISH」では、エンディングテーマ「心の銃 / アナーキー」の他にも、亜無亜危異の楽曲を始めロックな楽曲が使われているが、生活音のみのシーンも多く、また、いわゆる映画音楽的なアプローチの曲も、印象的なシーンに登場する。

これらの楽曲は全て藤沼監督が手掛けている。

その件について話をしたら、藤沼監督は「俺、北野武監督の、久石譲さんの音楽が大好きで、ジブリも曲がスゲーと思ったりして、意外と家でよく聞いていたりするんで、その影響もあるのかな…」と話していた。

そう言う意味でも、いわゆるロック映画とは異なる「GOLDFISH」。

「鮒」を品種改良した、ヒラヒラと水槽の中で泳ぐ「金魚」を娯楽の中で生きるアーティストに例えて、それをテーマに映画を制作したと藤沼監督は話していたが、「社会 / 経済」と言う枠の中で生きることの息苦しさ、挫折、孤独、老い 等の悩みを抱える我々にも、相通じるところがある作品だと個人的には思った。

藤沼監督
藤沼監督
金魚鉢みたいな所に、俺たちは最初から居る。そこから「鮒」になるのか「金魚」になるのか、それは皆で感じとって、生き方を考えればって話。

藤沼監督:考えないから、管理されるがままなんじゃねぇのって俺は思ってる。思考するって事は、問題を解決する為に考える訳だから。

映画の中に、女王陛下のプリントに安全ピンを刺したピストルズのTシャツを着て「こんなの日本でやったらボコボコですよね」って言うシーンがあるんだけど、じゃ、イギリスでやったら何でOKなんだろうとか。

漫才のシーンに入れたんだけど、ウッドストックは、実はロックフェラーの土地でやってたらしいし、それって全然 反体制じゃないじゃんとか。

そう言う中で生きてく時に「鮒」で生きるのか「金魚」で生きるのか。「何でもいいよ」ならそれでも良いし、生きていくって事を俯瞰で観てもらえればいいな…ってのも、ちょっと思ってる。

映画『GOLDFISH』は、2023年3月31日よりシネマート新宿・心斎橋ほかにて順次公開。

映画『GOLDFISH』Website
https://goldfish-movie.jp/

ABOUT ME
おにぎり1号・Tomoko Davies-Tanaka
Onigiri Media メイン・ライター おにぎり1号こと Tomoko Davies-Tanaka (Team Little-Big) は、フリーランスPRエージェント。海外⇔国内、英語⇔日本語業務を中心に、スモールビジネスのPR業務のサポート他、コーディネーションやブッキングも行っています。 インタビュー記事 https://ledgeweb.com/740/